「なにそれ。橋みたいなもの?」


手すりに掴まって身を乗り出し、


「渡れるの? てか、歩けるの?」


子供がクリスマスプレゼントに飛び付くように食いついたあたしを、おじさんは肩を上下させ可笑しそうに笑った。


「まっさかぁ! 確かに道や道やしがね、橋じゃねーらんし、渡れねーらんし。そもそも歩けねーらん」


そもそも、歩くこともできないってことか。


「なーんだ、つまんない」


がっかりして椅子に座り直して間もなく、バスは集落の終点に到着した。


整理券と小銭を運賃箱に入れ、


「ありがとうございました」


下りようとしたあたしにおじさんが言った。


「歩けやさんしがウニゲーが叶うぬぐとぅよ」


「え? 何?」


反射的に思わず振り返る。


「ごめんなさい、もう一回言って」


と困った顔をしてみせると、あたしがこの島育ちじゃないことを察し気を利かせてくれたのか、言い直してくれた。


「ムーンロードはさぁ、歩けはしないけどねお願いが叶うらしいよ」


「お願いが? なにそれ……それってどんな道なの?」


「どこに立っていてもね、真っ直ぐ自分に向かって伸びて来る、不思議な月明りの道さ」


見てみたい。


単純にそう思った。


「……どこに行けば見れるの?」


「夜の海さ。浜に行ってみなっさー。今夜は特別綺麗なのが見れるかもしれないよ」


まぁ、迷信やしがね、と冗談交じりに笑いながらおじさんは続けた。


「信じるか信じねーらんかやぁその人次第さ。ずっと泣いていたよね、ねぇねぇ」


「え?」


「何か悩んでるように見えたからさ」


「……あぁ……うん」


なんだ。


バレてたんだ。


「綺麗だからさ。気が向いたら見に行ってみるといいよ。気分転換になるかもしれねーらん」


こっそり泣いていたつもりだったのにな。