風が、肌を撫でて、髪毛を弄ぶ。
桜の花弁が、春風に乗ってふわふわと踊っていた。
仰ぐ空は清々しいほどに蒼くて、透き通るように天が高い。
そこにぽかんと浮かぶ真っ白な雲は蒼に映え、ひどくゆっくりと風に流れていく。

__ああ、幸せだな…。

和やかな幸せな風景に、自然と顔がほころぶ。



「なぁに一人で笑ってんだよ、藍希」

声を出して笑いながら、彼が藍希の頭をくしゃくしゃに掻き混ぜる。

「ゃあ~っ!セットが崩れちゃうじゃないっ!!
何するのよ、淳兄っ!!」

声を上げて淳の腕から抜け出し、藍希は頬を膨らませてみせた。

「ぼ~っとしてるお前が悪いんだろ」

にやっと笑う淳に、藍希はますます頬を膨らませる。

「ぼ~っとなんてしてないもんっ」

「だいたいセットって何だよ。
いつからそんなに色づいたんだよ」

「私だって成長するんです~っ」

淳に追いつけるようにと努力しているのにも関わらず、
一番褒めて欲しい当人に呆れられたら努力の甲斐がないじゃない、と
藍希は悲しくなるとともに理不尽な憤りを覚えた。

「あーあ、昔は自分のこと藍希って呼んでて可愛かったのになぁ…」

「淳兄がやめさせたんじゃないっ」

『いつまでも自分のことを藍希って呼ぶなよ。
__可愛いすぎるから』

あのときはそう言ってくれたのに…。

そして、藍希はむすっと拗ねてしまった。

「ムキになる藍希も可愛い~」

急に甘く囁かれて、驚く藍希の唇に柔らかな感触が降ってくる。
ちゅっと触れるだけのキス。
唇が離れたとき、藍希は真っ赤になって慌て出した。

「じゅっ淳兄っ!ここっ外っ!!」

「うん、わかってる」

平然と返す淳は満面の笑みを浮かべていた。

「だっ誰かに見られたら…」

朝と言えど早朝ではないから、藍希は人の目が気になって辺りを見回す。
でも、普段は散歩人とすれ違うこともあるのに、今二人の周囲には誰もいなかった。
ほっとする藍希に、意地悪な笑顔を向ける淳。

「ん?可愛いすぎる藍希が悪い」

その笑みを消して、淳はそれに、と続けた。