会長と社長が退出し、兄貴と共に部屋に戻ろうとすると、役員の方たちがやってきて囲まれてしまった。兄貴はさっさとすり抜けていく。

「黎さん、ご婚約おめでとうございます。小関 絢乃さんですか。KOSEKIのお嬢様ですよね?すばらしい!お幸せに!」

「ありがとうございます。皆様のご期待に沿えるよう頑張ります!では、」

足早にすり抜け部屋へと戻った。

扉の中に入り、大きくため息をつくと

「ご苦労さん!大変だな!」

兄貴は他人事だ。

「次は兄貴だな。」

「俺は結婚しない!」

「何言ってんだか・・・」

秘書がコーヒーを運んできた。

椅子に座り、カップを口に運ぶ。なんだか無性に絢乃に会いたくなった。

携帯を取り出し、メールを打つ。

”役員会終わったよ。絢乃の顔が見たいな。何もなければ待ってて。5時半には会社に戻れるから!”

送信ボタンを押す。

「なに真剣にメール打ってんだよ!絢乃さんか?ぞっこんだな!」

兄貴に呆れられているが、俺にそんな余裕はない。

「じゃ!俺会社に戻るわ。」

「え!仕事すんの?」

「う、うん。まぁ・・・」

「ふぅ~ん。絢乃さんに会いに戻るってことか。いいねぇ!俺も戻ろうかな・・・」

2人そろって立ち上がり、本社を後にした。

玄関前にはハイヤーが用意されていた。会社までと思ったが、終業時間とぶつかるので、地下鉄で帰ることにした。

地下鉄の駅に急ぐ。

こんなにも女に会いたいと思うなんてなかったな・・・

なんて思いながら電車に乗った。