そして、数分後。

部屋に戻ってきたのは、里吉一人だった。
直方体の積み木を積み直す聖の背後を、首を傾げて髪を触りながら、なにも言わずに通りすぎる。

礼儀だけは丁寧すぎるほどしっかりしている里吉が、なんの言葉もなく、無言で戻ってきたこと。
恋宵がいないのに、なにより先にその説明がなかったこと。
背筋をしゃんと伸ばすいつもの歩き方ではなく、妙に肩や首をふらふらと揺らしていたこと。

後から思えばその時、誰も指摘せずつっこみも入れなかったことに、違和感を抱くべきだったのだ。


「恋宵はどうしたんだ?」


一人だけで戻ってきた里吉に、紅が尋ねる。
ふっと顔を上げて、口を開く前に、准乃介が口を挟んできた。


「お菓子でも持ってくんじゃないー? 夏生、手伝いに行ってあげたら」
「えー……はい」


やる気のない声をあげつつも、夏生は渋々立ち上がる。
すると、隣に座っていた聖も、胡座の姿勢から膝を立てた。


「あ、俺も行くよ」


古そうな板張りの渡り廊下を進んで、母屋へと入った時だった。

聖が、ガラス張りの窓からちらりと庭を見てから、夏生を振り返る。
そして、おもむろに左手の障子に手をかけた。
和室の中に向かって、小声で言う。


「おっけーおっけー、もういいよ」
「……聖? なに……」


友人の奇行に、夏生は眉を潜めた。
だが、彼の呼び掛けのあと、軽い足音と共に姿を現したのは、さっき離れの部屋に戻ったはずの、里吉だったのだ。