彼女の勢いに唖然としていた直姫は、ふとテーブルを見た。
そこにあったのは、積み木の塔、だったもの。


「あ」
「わーい夏生の負けにゃー!」
「俺の言うこと一個聞くんだからなー!」
「はぁ? あの人のせいじゃん」


眉をわずかに動かして、榑松が去った襖を指差す夏生。
彼にも意外に子供っぽいところがあるようで、自分の負け方が気に食わないらしかった。


「くれちゃんはそれがお仕事なのー。人のせいにしちゃ駄目にょろよ!」
「どんな仕事なの。破壊?」
「だいじょぶだいじょぶ、大したことじゃねーから、な!」


やたらと大袈裟な笑顔の聖に、夏生は訝しげな表情を向ける。
詳しいことはあとで、と、歯を見せて口許だけで笑った聖が、するりと目を逸らした、ちょうどそのときだった。


「私、ちょっと失礼致しますわ」


図ったようなタイミングで、里吉が立ち上がる。
咄嗟に動こうとしたスーツの男たちに眉を潜めて、非難がましく言った。


「レディーのプライベートなことですの。少しは気を使って下さらない?」


夏生がぼそりと呟いた「レディーじゃないじゃん」という言葉も一切すっぱりと無視した里吉は、それなら、と言って、恋宵に向き直る。


「どうしても誰かついて来るというのなら、恋宵さん、お願いできるかしら」
「いいにょろよー?」


里吉の物言いから推測するに、行き先はお手洗いだろうに、二つ返事で付いて行くというのもどうなのだろう。

もっとも、ボディーガードの彼らはこの少女を護衛しろと言われただけで、里吉の素性も本当は少女ではないことも、全く知らされていないらしい。
そのため、夏生の小さなつっこみにも、二人が連れ立って出て行ったあとの腑に落ちない空気にも、不思議そうな顔をしていた。