すぱぁ、ん――という、あまりに良い音を立てて襖が勢いよく開き、停滞していた空間に、新しい空気が流れ込んだ。
つむじ風のような威勢の次は、いっそ暴力的なまでの活気と元気。


「失礼致しやッす! お嬢さん、ただいま帰りやした!」


大きな声で空気を震わせながら現れたのは、Tシャツとサブリナパンツという軽装にシンプルなエプロンをした、いやに快活な女性だった。

里吉は、ここ数日でもう見慣れたその人に、声をかける。


「……あら、榑松さん」
「お前な……襖が外れるから少し力を加減しろと、何度も言ってるだろう?」
「すいやせん、次から気を付けやす! あ、皆さんお久し振りッす、昨日は顔出せなくて、どうもすいやせん」


活発そうなショートヘアの彼女は、榑松(くれまつ)、石蕗家の使用人の一人だ。
主に紅付きで身の回りの世話を担っているのだが、紅が極力人の手を借りずに自分でなんでもやってしまうほうなので、もっぱら話し相手、というところである。

ちなみにこの離れの和室に里吉と恋宵が泊まるにあたって、紅と一緒に同じ部屋に泊まり込んでいるのが、この榑松だ。

紅が崩していた足を正して、手のひらを上に向けて示す。


「直姫と真琴は初対面か……使用人の榑松だ。榑松、こちら、生徒会の後輩の」
「あ、佐野真琴です」
「西林寺直姫です」
「お初にお目にかかりやす、ゆっくりしてっておくんなせ!」


忙しかったのか、「ただいまお茶のおかわりお持ちしやすね!」と告げると、すぐに走り去ってしまった。
嵐のように来たかと思えば、去る時もまるで嵐のようだ。