居吹は、志都美(しずみ)と名乗った彼女を前に、今朝の職員会議を思い出していた。

確か、先週の頭にも言ったと思うが、イギリスからごく短期の留学生が来るから、というようなことを、大学の先輩でもある藤井が言っていた。
先週の頭、そんな話聞いたっけ、と記憶を掘り返して、そういえばその日は前日の深酒が残っていて午前中は半分死んだように体だけ動かしていたのだった、と思い出したのだ。

同じだけ飲んだはずの同僚がなぜあんなに元気なのか、理不尽だとさえぼやいたのは、藤井に対してだったはずだ。
酒の席には、藤井もいた。
同僚も含めた三人は同じ大学の出身で、よく飲みに行く面子なのだ。

だが藤井は胃痛持ちなうえ、三人の中では一番先輩なので、無理に酒を勧められることはない。
そのため、一番年下の居吹に集中砲火が下るというわけだ。

あの日の同情に満ちた藤井の視線を思い出したところで、居吹の記憶は急に今朝に戻った。


(あれ? でも確か、留学生は……)


多分もうすぐ戻ってくっから、なんて適当に受け答えしながら、ふと浮かんだ疑問を確かめるため、藤井の机へ向かう。

机の上には、留学手続きの書類や履歴書の類が、無造作に置かれていた。
国内一のセキュリティを誇る悠綺で、ちょっとトイレに立っただけとはいえ、この無防備さはいかがなものか。

だが、その数枚にちら、と目を通した次の瞬間には、そんなことはどうでもよくなっていた。


(う……嘘だろ……、)