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泣き止んだ城ノ内未奈嬢を連れて直姫がホールへ戻った頃には、もう、定期発表会の最後のプログラムが始まっていた。

トリを努める、シンガーソングライター・Inoこと伊王恋宵が、ステージで弾き語りをしている。

ギターだけを抱えて、スタンドマイク越しに、目を細めて客席を見渡して。
変人と言って憚りない普段の姿からは、想像もつかない表情だ。

高校生とは思えない演奏技術と、よく通る声と抜群の歌唱力と、きっと彼女にしか作れない歌。

遠くからそれを眺めながら、直姫はぼそりと呟いた。


「……先輩、歌は上手いのに……」


どうして普段はああなんだろうか。
心底不思議に思えて、首を傾げる。

しかし客席にいる人々はその力強くも柔らかい歌声に聴き惚れているし、実際、だからこそシンガーソングライターとして絶大な人気を誇っているのだろう。

人は人の思いもよらないギャップに惹かれるとよくいうらしいが、彼女のこともそんな一般論で片付けてしまって、果たして良いだろうか。
そんな失礼なことをぼうっと考え込む直姫に、後ろから掛かる声があった。


「あ、直姫! どこ行ってたの?」


振り向くと、城ノ内はいつの間にか姿を消している。
代わりにいたのは、舞台上に限っては頼もしかった、友人だった。
客席の照明が少し落とされているためか、いつもは授業中だけかけている、ハーフリムの眼鏡をかけている。


「真琴……ちょっとね、用があって」
「……? さっき写真部の人たちが、直姫を探してたけど」
「げ……やだな」


写真部とは、四六時中カメラを首から下げている写真オタクが率いる、美しいものを被写体にすることに青春を捧げる少年少女の集団だ。
おおかた、この発表会の舞台裏ショットでも狙っているのだろう。

今さら言うことではないと自分でも思うのだが、本来なら直姫は、目立つことが好きではない性分だ。
写真部なんて、できるならばやり過ごしたいものの筆頭である。