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いよいよ劇も終盤に差し掛かった。

真琴演じる蛍(ケイ)がアメリカへと旅立つことになり、空港へ駆け付けた奈緒子と、互いの気持ちを伝え合う場面だ。


「蛍さま……私、あなたのことが!」
「奈緒子っ! 僕と一緒に来てほしい……!」


駆け寄り、固く抱き合う二人。
台本を見た真琴が、ぼそりと「相手、僕でよかったね」と呟いていた場面だ。

固唾を呑んで見守る観客の間には、しんとした静寂の隙間にわずかなざわめきが広がり、ハンカチを片手に嗚咽を漏らしている女子生徒も多い。

そしてついに、残すところはラストのキスシーンだけとなった、その時だった。



「二人とも、危ない!!」



本番での役目はないはずの、そして内気なはずの山田琢己の、今まで聞いたことのないような大声が響いた。

驚いて舞台袖の彼に目をやると、上を指差して「避けて!!」ともう一度叫んだ。
頭上を見上げた直姫と真琴は、思わず目を瞠る。

顔を上げた瞬間、二人の真上に設置されていた照明器具が外れて、落下してくるのが見えたのだ。


「え、うわ……っ」
「直姫っ!」


後ずさった拍子に、足首がズキリと痛んで、直姫はよろめいた。
真琴が咄嗟にそれを庇って、二人一緒に倒れ込む。


――がしゃん、照明が叩き付けられた音が、やけに大きく響いた。