「つまり、夏生先輩の気を引きたかった、てことでしょうか?」
「なにそれ……ベタなうえにはた迷惑な」
「ちょ、直姫、」
はっきりと誰のせいだとも断定できない状況である。
とはいえ、今回の事の発端と言っても過言ではない直姫が、そこまで里吉を責めてもいいものだろうか。
案の定里吉は、柳眉を逆立て食ってかかる。
「なんですって……そもそもあなたなんかが夏生さまのおそばに居られること自体が気に食わないのよ!」
「変な言い方しないでほしいな……別に好きで生徒会にいるわけじゃないよ」
「なんて贅沢なんですの……!? 誰もが羨む立場にいながら!」
「よかったら譲るから、特待試験受けてきなよ」
「ほんっとに生意気ですわね……だいたいあなた、夏生さまに対しても私に対しても昔からそんな態度じゃない! 男性に興味ないんですの!?」
「サトちゃんほどはないけど?」
「な、なんですのその言い方! 私は別にそんな性癖ありませんわ! 失礼な……!」
燃え盛る炎のような里吉の勢いに煽られて、直姫までいくぶん温度が上がってきているようである。
珍しいこともあるものだと眺めていた彼らだったが、ふと紅が、首を傾げて言った。
「……昔、から?」
それは瞬間的なことだっただろうか。
それとも、数分にも及んだのだろうか。
果たしてそれは定かでないが、しかし、その声が騒然としたその場になぜかはっきりと響いたこと、そして少しの沈黙が訪れたことは、確かだった。


