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八人の周囲では、里吉の協力者、誘拐犯グループ役だった男たちが、忙しなく動いていた。
“誘拐犯のアジトセット”を、せっせと解体しているのだ。

ヘレンドのサクランボ柄のティーカップは、スポンジの詰め込まれたケースに丁寧に仕舞われていた。
まるで引っ越し業者のようだ。

ちなみにサンドイッチは里吉たちの分しか作っていなかったようなので、作業の合間に、准乃介たちが運び込んだ弁当を夕食として食べてもらった。
流暢なイギリス英語で礼を言われた真琴が、ものすごく困った顔をしていたのが、強く印象に残っている。

様々な噂が横行しているために正確なことはなんとも言えないが、アダムスがマフィアと繋がりがあるというのは、里吉の考えた作り話だったらしい。

アダムス社にしてみれば、とんだ濡れ衣を着せられたものだ。
一歩間違えば名誉毀損で訴えられてもおかしくなかったが、里吉は、こんな眉唾を広めてしまうような野暮な方は悠綺の生徒会にはいないと思って、なんてけろりとしていた。

狂言誘拐事件の動機は、可愛らしいといえば可愛らしい、と思えなくもない、かもしれない、そんな理由で。

確かに三年前のバースデーパーティーの時と今とでは、夏生の里吉への態度には、雲泥の差があるだろう。
あの頃は父親の古い知人の息子、今はただの、女装趣味の我が儘留学生なのだから、当然である。

しかもさらに悪いことに、その無愛想さは生徒会役員を別にしては里吉に対してだけであり、普段は放課後の彼が別人に思えるほどの人当たりの良さなのだ。
なんで自分だけ、と里吉が思ってしまっても、無理はなかった。