直姫の口調には、不思議そうな色の中にも、わずかに非難の色が含まれている。
さんざん振り回されたのだから、当たり前といえば当たり前だ。

ただもとはといえば、抜け駆けデート計画を持ち出したのは直姫であって、里吉はそれに便乗しただけなのだ。
自分のことを棚にあげるなと言われれば、それまででもある。

一方の里吉は、今にも決壊しそうに目を潤ませていた。
唇は、嗚咽を耐えるように噛み締められている。
咎めるような目が一斉に自分に向いているこの状況で、普通の少女ならば思わず涙ぐんでしまっても仕方のないことだろう(とは思うけれど、しつこいようだが、里吉は普通の少女ではないのだ)。

サトちゃん、と、恋宵が柔らかく促す。
あんなに嫌がっていた呼び名を、さすがにこのときばかりは、素直に受け入れていた。
そして、ぽつりと言う。


「だっ、だって……夏生さまが」
「……俺?」


突然名前を出された夏生は、とても不本意そうに眉をひそめた。
だが、口を挟むなと紅に視線で制され、仕方なく押し黙る。
里吉は涙を浮かべたままで、続けた。


「夏生さまが……他の子と、あんな風に話すから……!」


夏生は、その場の視線が全て自分に向いていることに気付いて、大きく舌打ちをした。
ぱちぱちと瞬きをして、聖が「えっ、」と言う。


「やきもち?」
「ねぇ、これ、俺関係ないよね」
「夏生ぃ、駄目にょろよう、女の子泣かしちゃ」
「どこに女の子がいんの?」


実に珍しいことに、盛大に顔を歪めて、夏生は苛立たしげな溜め息を吐いた。
聖も恋宵も、もうすっかり面白がる方向にシフトチェンジしてしまっている。
この場に、表立って夏生に同情するような者は、ただの一人もいないのだった。