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「な、つみ……さま、」
「あんた、縛られてるんじゃなかったの」
問い詰めるわけでもなくそう尋ねる夏生には、なんの表情も浮かんでいなかった。
無表情のまま、時折、つまらなそうにゆっくりと瞬きをする。
相対する人物──里吉は、ちらりと目を合わせて、すぐに逸らした。
息を呑んで、深く呼吸をする。
「あの、」となにか言おうとした里吉を遮ったのは、緊張感のないいつもの声だった。
「にゃあ、まこちゃんと准センパイ、無事だったにょろ~」
誰と言わなくても明らかだが、恋宵は、にっこりと笑ってひらひらと手を振った。
その視線の先にあるのは、小さな丸テーブルだ。
上には湯気を立てる三人分のティーカップと、サンドイッチの乗った皿が置いてある。
そして、呑気にカップに口をつけるのは、『人質』たちだった。
紅が、声を上げる。
「准乃介、」
「だから言ったじゃないですか、先輩たちは大丈夫だって」
「紅、そんなに心配してたの?」
准乃介は立ち上がりながら、小さく笑い声を上げた。
「べ、別に」と言いながらも、紅の顔は安堵をあらわにしている。
「まじで嘘だったんだ……」
「サトちゃん……にゃんで?」
聖は呆気に取られ、恋宵は怪訝な表情を浮かべていた。
里吉は、罰が悪そうに顔を背けている。
直姫はそんな彼に、言った。
「なんで……狂言誘拐なんか」


