「……おい、夏生」


なにも答えようとしない友人に苛立って、聖が眉を寄せる。
だが不意に、それまでほとんどなにも言わなかった夏生が、口を開いた。


「真琴、……准乃介先輩」
「……なに。」


予想以上に静かで冷静な声に、面食らう。
真琴は目を丸くしただけだったが、准乃介は、いつもの柔らかい声色で、返事を返した。

助手席に座った夏生は、運転席へと視線を移す。


「先に、中に入ってくれませんか」
「え、」


困惑した声をあげたのは、真琴でも准乃介でもなく、ただ黙って夏生の後ろ姿を推し測るように眺めていた、紅だった。


「どうして」
「とりあえず食料を運んでください。時間稼ぎ、おねがいします」
「だから、どうして真琴と准乃介なんだ」
「いざという時のために、それなりに動ける人のほうがいいかと」
「それなら……、私だっていいだろう」
「さすがにこんなこと頼めませんよ」
「そこらの男に私が負けると思ってるのか」


途端、紅の顔つきが変わる。
明らかに怒りを含んだ表情で、身を乗り出した。


「そんなわけないでしょう」
「だったら私が行く」
「それはだめです」
「だからどうして!」
「予定が狂うんですよ」
「予定!? なんの話なんだ!」
「紅先輩のことでは」


遮るように紡いだ言葉からは、もう何を言われても曲げるつもりはないことが、明らかだった。
その固さに一瞬怯んだ紅は、怒り顔もそのままに、夏生が言うのを待つしかなかった。


「確かめたいことがあるんです」