誘拐犯からの接触は今のところ、遊園地で受け取った脅迫状、ただそれだけだ。
連絡を待て、と書いてあるのだから、これから何らかの方法で何らかの接触があるはずだが、とりあえずこれまでに連絡はない。
里吉の携帯電話のGPSも追えるようにしてあったが、遊園地を出た直後に電源を切られたようで、使い物にならなかった。

どんな方法で接触してくるのかは、さっぱりわからない。
今は待つしかないのだ。
それまではどうすることもできない。
できないことはわかっているのに、だからといって他のことをする気なんて起きるはずもなく、ただただ無言でいる時間が、数十分ほど過ぎた。

外はほんの少し、暗くなりはじめている。
カラスの鳴き声が、ずいぶん増えてきていた。
石蕗邸の裏の山に、群れで住み着いているのだろう。

なんとなくその声に気を取られていた直姫は、不意に聞こえた電子音に、首を巡らせた。
さっき夏生がアダムス社について調べるのに使っていた、紅のパソコンからだ。
ぴこん、という軽快な音と共に、メールの受信を知らせるポップアップが表示されていた。

紅が、マウスに手を伸ばす。

彼女が訝しげに眉をひそめたのを、誰もあまり気に留めていなかった。
夏生が使っている最中にも、メールマガジンや迷惑メールを、何通か受信していたからだ。
紅自身そうだったようで、なんの躊躇も躊躇いもなくマウスを動かしていたのだが、ふと、その手が止まった。

夏生がその顔に目をやって、直姫が名前を呼ぶ。


「紅先輩?」