数秒間だけそんなことを考えて、夏生は足を動かした。
来た道を引き返すことにしたのだ。

自分を追い越したのでなければ、少なくとも後ろにはいるはずだ。

暗闇に融けそうな黒髪と、浮かび上がる白い手足を目印にする。
それから確か、右手の甲には、少し大きめのほくろがあった。

ほとんど走るような速度で歩く夏生は、すぐそこの曲がり角から、別の誰かもまた小走りで来ていることに、気付くのが遅れた。
出会い頭にぶつかりそうになって、「うわっ」と声を上げた相手の顔を見る。


「聖?」
「え、夏生」


最初に思ったのは、変な頭、だった。
暗闇でも、いつもの金髪でないことはわかったのだ。

しかしすぐに思考は切り替わる。


「サトちゃんがいなくなった」
「え!?」


内心の焦りを顔には出さずに、早口で言う。
聖はきょとんと目を丸くしたあと、訝しげに眉を潜めた。

聖は当然入り口から入って、夏生たちが通ったのと同じ道を同じように歩いてきたはずである。
だがこの反応を見る限り、里吉に会ってはいないのだろう。

聖がぱちりと瞬きをして、言った。


「誰にも会ってないよ」
「うん」


これ以上引き返しても無駄だと判断して、踵を返す。

足早に歩きながら他の五人の所在を尋ねると、直姫と恋宵は展望台、真琴はお化け屋敷の前、准乃介と紅はうろうろしてる、という答えが返ってきた。
携帯電話を取り出すが、表示は圏外。

急いで外に出たところで、待っていた真琴と、合流した准乃介と紅を見つけた。