「ね、あれ柏木聖くんじゃない?」


空気の読めない誰かのそんな声が聞こえて、茶髪のウィッグを被った聖が、慌てて顔を背ける。
だがそれも手遅れで、彼に注目が集まってしまえば、隣にいるInoや佐野真琴や沖谷准乃介の存在にも気付かれてしまうのは、明らかなことだった。


「こんなんじゃこっそり尾行なんて無理ですよ」
「団体行動だから目立つんじゃん? 二人ずつに分かれましょうよ」
「そうだねー。じゃあ紅、行こっか」
「な、なんでお前が私と組むんだ!」


ごくごく自然に腕を取った准乃介を振り払い、紅が叫ぶ。
途端に後輩たちから口々に「しーっ」「先輩静かに!」という声が飛んできて、何か言いたげな口を閉じた。

だが紅の抗議は、実に最もなことなのである。

彼女が照れ臭いから、なんて理由ではない。
准乃介のほうの問題だ。

芸能人という立場上、たった一枚異性と一緒に写っている写真を撮られただけで、評判が地に落ちるなんてこともあり得るのだ。
ただの友達だとか、本当は他の友人と数人でいただとか、そういう言い訳は一切通じないと言っていい。

現に准乃介と紅だって、たまたま一緒にいるところを撮られた写真がゴシック誌に載って少し話題になったことがあったと、榑松が言っていた。