恋と魔術のはじめ方

その言葉が耳に届いたようで、細身の女性がファリナに右手の人差し指を軽く差し向けた。

『そうそう、そんな名前の魔術士だったわ…すごく有名だから、お店、抜け出して見に来たんだけど、この人の多さじゃね〜』

細身の女性は"横に大食い亭"と書かれた黒いハイヒールのかかとを上げながら、必死に奥を見ようとしている。

『…あ〜ん、やっぱり見えないわよね…』

と言いながら、それでも背伸びをし見ようとしている。

『……。』

と、そんな彼女を尻目にファリナはズンズンと前方に歩き始めた。もちろん、前には人の固まりがあるのだが、ファリナは顔色ひとつ変えずに進んでいる。そしてその人の渦へと割り込み、強引に中に入っていく。

『やるわね、あの子…』

感心しながら細身の女性は軽く頷いた。
ファリナの姿は既に奥に進み、彼女の視界からは消えていった。