恋と魔術のはじめ方

知りもしない相手に自分の名前が知られており、どうして狙われているのかが分からなかったからだ。

エリカは首を左右に動かし、碧色の長髪をサラッと振り回す。

その後エリカは一呼吸おき、いつもはキュッと締まった口元を緩め、

『…私は、あんたが住んでたの街の人々から、依頼されて来たのよ。1年前に街を盗賊達に襲わせ、そして街の人々をさらった張本人、ファリナ・セアを捕まえてほしいってね』

淡々とした口調で説明すると、薄笑いを浮かべだした。

それを聞いて、ファリナはただ愕然とした。

まさか、街の人々が自分を捕まえようとしてるなんて…。

どうして…。

私じゃなくて、あの魔術士がやったのに…。

お母さんもそう思ってるの…!?。

脳裏にそんな言葉が浮かんでくると、今まで溜めていた不安や辛い気持ちが一だんだんと膨れ上がってくる。

母親やメリキスの街のみんなを助けるために、1人で魔術士なろうとしたけど…、自分が…やった…の…かも…しれ…ない。

それらの気持ちは次第に、ひとつの大きな絶望へと姿を変えていく。そして、だんだん意識が遠のいていき、無くなって…

いくはずだった。