恋と魔術のはじめ方

そう言うと、身代わりの魔時計を握った右手の人差し指で、左斜めの方向を指さした。

そこには、ある人物が立っていた。が、ファリナにとっては予想外の人物だった。

『あの人…って、ただの、お婆さんじゃない!』

ファリナが勢いよく言った通り、ライラックが指差した人物は、地面に杖をついた老婆だった。

左側に見える焦げ茶色の二階建ての民家の前に立っている。

穏和そうな顔立ちだが、かなり高齢なようで、その顔にはそれを象徴するいくつもの皺が存在する。ボサボサの白髪の髪が、無造作に肩まで伸びている。服装は、地味なベージュ色の袖がある布製の上着に、黒色の長いスカートを履いている。首には薄手のピンク色のスカーフを巻いている。

ファリナは老婆をジッと見ているが、動く様子すらない。

すると、ライラックが急に鼻で笑い出したかと思いきや、口を開いた。

『確かに、本当に、ただのお婆さんなら違うかもね。…でも、見かけはそうでも、中身はどうなのかな…?!』

『え、中身って…?!』

ライラックの言葉の意図がファリナには分からなかった。