恋と魔術のはじめ方

…はずだった。

開いたファリナの右手には何もなかったのだ。

それを見たライラックは、

『これは何の冗談なの?!…驚かすものがなければ、弟子にはしないよ…』

ムッとした表情のライラックに対して、いつになくファリナは落ち着き払っている。

ファリナは右手を引っ込めると、説明し始めた。

『わたしは、あれから街中の人に聞いてまわってたの…あなたの噂を…』

『噂??』

意味の分からない事を言い始めたファリナに、ライラックはただ話を聞くしかなかった。先ほどまでと立場が逆転してしまっている。

ニッコリと口元を緩め、ファリナは自分が聞いた"噂"について語り始めた。

"魔術士ライラックの弟子になろうと何人もの魔術士たちが志願したけど、結局誰ひとりしてもらえなかった"…と。

"結局、魔術士ライラック誰も弟子にとる気はない!" …と。

"確かに有名だが、人を信用しない事でも有名な魔術士…"…と。

そんな"噂"をファリナは耳にして、あることを決意したのだ。

『…どうせ、あなたに何を持ってきても驚かせられないなら、何も持っていかなくても同じって思ったの』