恋と魔術のはじめ方

確かにライラックの右手には、ダチュアがさっきまで握っていたナイフがあった。

その一瞬の出来事に、周囲の観衆は歓喜の声を上げた。

『魔術士ってすごいなあ!』

『やっぱ、魔術って、すげぇんだなぁ』

『あんな子供なのに…、魔術士ってみんなあんな魔術が使えるのかしら…』

観衆が盛り上がっている中、ファリナだけは、

『…』

ただじっとライラックを見つめていた。

『…な、なんで、俺のナイフがあんなとこに…魔術なんて卑怯…だろうが…』

と、ブツブツと呪文のようにダチュアは独り言を言い、その場に立ち尽くしている。

すると、ライラックはつまらなさそうな顔をし、

『もうつまらなし、捕まえる気もなくなったし…賞金もいいや…』

と、今まで座っていた噴水の石段から立ち上がる。

戦意喪失の盗賊に興味がなくなった様子だ。

ライラックは左手を向き、この場から立ち去ろうとしたが、

その時…

『私を弟子にして!』

と叫ぶ声が届いた。

観衆の誰もが、その声の主を探すためキョロキョロと周りを見回したが、その必要はなかった。

その声の主が、一歩前へ出て、そのままライラックの方へと歩いていったからだ。