後ろを見上げると癖のある前髪の間から目の前を真っ直ぐ見つめる瞳が見えた。
ぶれないその目の先を辿れば相手も同じように…いやむしろ睨みつけるようにしていて。
「失敗は成功の元」
「……」
「だからコイツ貰う」
…空気読んで言わないけど何言っちゃってんの?
え、頭イッちゃってんの?
だから、って何よ、だからって。
「……」
言わないけど顔には出ているだろうあたしをよそに、2人は変わらず視線を絡ませている。
「えーダメっ!
このお嬢さんいなくなったら面白くないじゃん」
…空気読めない子此処にいまーす、本当に勘弁して、誰かこの子連れてってー。
あたしでさえ我慢していたっていうのに。
このバカまじで、馬鹿。
…と思っていたら。
「それに瑠璃さんだって…」
「サキ」
「…はいはーい」
名前を呼ぶ、たったそれだけだけど空気読めない子は読める様になった。
というか読まざるを得なくなった。
それほど低く冷たい声だった。
サキがリビングに入ったのを見、瑠璃は再び口を開いた。
「奴等について知ってるか」
「いや。ただバックの目星は付いてる」
「表は」
「お前等ンとこと一緒」
「チッ…」
話にまったくもって付いていけない、なんだこの会話。
つーか片足は床、片足は空中でプラプラしているあたしのこの状態はどうしたらいーんだ。
チラッと憂依を見れば頭に手がポンと乗ってくる。
かと思えばまるで小さい子供の様に抱えられ、見上げていたはずがいつの間にか憂依を見下ろしていた。
「良いな?」
「勝手にしろ」
どうやら2人の間では話は終わったらしく、このまま帰る模様…え、このまま?
「じゃあな、瑠璃」
そう言って憂依は瑠璃に背を向ける。
「気安く呼ぶな」
マンションの扉を開け、憂依は振り返って
「お兄ちゃん、コイツは貰うね」
と言いまた背を向けエレベーターへと進んだ。
あたしは知っている。
扉の閉まる瞬間。
視界の横に見えた瑠璃の顔と言葉。
般若の様な顔とオーラで
「ざっけんな死ね」
と呟くのを。
…まぁ気持ちは分からなくもないけどな。
お兄ちゃんは無いよ、お兄ちゃんは。


