その空気を纏った人間があっち側から歩いてくる。




「…てめぇ」




真っ黒のニットに真っ黒のチノパン。

声がいつも以上に低く掠れていてとんでもなく怒っているのが分かる。




「結城家、じゃねぇな。
コイツん家にいたんだろ」


「…うん」


「まぁだろうと思ってた。
婚約者も使って、お前は満足かよ?」




鋭く細めた色素の薄い目が、憂依を射抜く。



今の言葉で瑠璃は全部計算していたんだ、と知った。


ハンナを介してあたしに会うことも、おそらく此処に来ることも、全部。



…我が兄ながら本気で怖い。




「霧生」


「……」


「お前は何をしたい」


「……」


「Rainを潰したいのか。紀憂を利用したいのか。
…それとも紀憂を潰したいのか」




憂依は瞬きをひとつ、ゆっくりとした後。

薄く整った唇を開いた。










「妹さんを俺に下さい」