「…だから嫌だったんだ」
落ち着いた頃、あたしの椅子になっている人は不機嫌にそうはき出した。
ハンナにあたしを連れてくるように頼むのはやろうと思えばすぐに出来たらしい。
ただ、心配ごとがあって渋っていたご様子。
「紀憂さん、共にいきましょう…!」
…あたしが彼女に取られてしまわないか、と。
だからお前達婚約者同士やろが。と言えば
「あの爺さんの孫なんだ、俺よりもお前みたいのが好きに決まってるだろ」
「あら、それはそちらも人のこと言えなくってよ」
…つまりお互いタイプではないと。
このイケメンと美少女、他の人たちがそれ聞いたら怒られるぞ。
フゥ…溜息をつけば不安になったのかのようにきゅ、とまた強く握られる手。
「…紀憂さん」
「ハンナ、」
「紀憂さん、私守りますわ。絶対に役に立ちます」
「……」
「一緒に行きましょう」
温かい手。
闇に落ちていない綺麗な手。
この先、憂依と一緒になった時も綺麗な手でいるだろうか
その笑みが曇っていないだろうか
…憂依も笑っているだろうか
未来の事を考えると喉がツーンと引っ張られているように痛い。
でもきっと、あたしはずっと独りでいた方が良いと思うから。
「ハンナ、」
「…?」
「あたしは大丈夫」
「紀憂さん、」
「覚悟できているんだ」
「紀憂さんっ…!」
あぁ泣かないで、ハンナ。
泣かせる為に言ったんじゃないんだよ。


