雪沢クンはわたしがあんまり興奮するので、重たそうな口を開いてくれた。

「当時、恐喝や喧嘩が日課みたいになってて。入学して1週間もすると、学校じゅうのヤツらが俺たちの顔色をうかがうようになって来た」

「西中ってそんな学校だっけ?」

「入学して半月ぐらいして、安土が等々力サンのことを恐喝しようとしたんだ。そしたら反対にボコボコに殴られた。この人がこの学校の頭なのかって勝手に思っていたら、サッカー部の主将だって言うから驚いた。それで等々力サンに、なかば強制的みたいな形でサッカー部に入部させられたんだ」

「そうだったの。安土クンがそんなこと」

「でも俺はホッとした。悪いことや人から嫌われること、もうしたくなかったから」

「だけどどうしてそもそも雪沢クンが安土クンたちと一緒に行動しなくちゃならないの? そんな不良みたいなこと、どうして雪沢クンも日課にしてたのよ。どうせ雪沢クン、優柔不断な中学生だったんでしょ? イヤなこともイヤと言えない、情けない少年だったんだ?」

「そうかも知れない。でも俺はそれからサッカーにとりつかれた。サッカーが何よりも俺の支えになったんだ。安土も奈良岡も、最初はイヤイヤやってたけど、でも夏休みに入る頃には3人共サッカーが面白くてたまらなくなった。なのにその冬、奈良岡が事故った」