「いい加減にしなよ。なに調子に乗ってんの?」


あまりに唐突にぴたりと吉村の怒声が止んだので、直姫は、夏生が彼の顎でも掴み上げたのかと思ったくらいだ。

だが夏生は、吉村と真琴の間に立って、彼の肩に手を置いているだけだった。

それまで、ずっとどこかに流していた夏生の視線が、吉村をじっと捉えている。
黒目がちの目に見据えられて、吉村は、喘ぐように呼吸をしていた。


「金と権力、ね。アンタがそう言ったんだから、ちゃんと覚えときなよ」


整った顔が、薄く笑う。
「な、」とも「あ、」ともつかない声を、吉村は上げた。

潰される。

彼の歪んだ顔には、明らかに、恐怖の色が浮かんでいた。

夏生が言っているのは、そういうことだ。
自分で言った言葉に、自分の首を絞められることになる、という、予告。

つまり、そこまで言うなら、その金と権力でもって潰しにかかるから、覚悟しろ、ということだった。



吉村は、ふと表情を消した。
はは、と意味なく上げた笑いは、やけにからからに乾いていた。