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「ほう……お前か、盗撮犯は」
紅が目を細めると、彼は肩を揺らして顔を背けた。
家は剣道家元、自身も全国大会で負けなしの記録を五年間更新し続けている彼女だ。
竹刀を持っていなくても、恐ろしいものは恐ろしいのだろう。
そんな紅は夏生と直姫から遅れることわずか、裏口から飛び出してきていた。
更衣室で灯りをつけ、まるでテニス部員が数人入ってきたかのようにずっと声をあげていたのは、実は紅と恋宵だったのだ。
女言葉なんて話したことのない紅は戸惑っていたが、恋宵が一人で五役分の声色を使い分けていたので、相槌だけでなんとかなった。
本物のテニス部員を使ってもよかったのだが、彼女らが盗撮犯確保の囮なんて怖がったのもあるし、なにより、女子テニス部は秘密裏に活動を自粛している。
情報の早い新聞部さえまだ知らないその話を、部員の一人にこっそり教えられたのは、直姫だった。
北校舎はすでに、とっくに人払いを済ませてある。
そうでなければ、夏生がにこりともしないやる気なさげな表情と、柔らかさのかけらもない無愛想でシンプルな口調を、晒すはずもない。


