薄暗闇の中でぼうっと浮かび上がった淡い桃色が、かさかさと枝葉の擦れ合う音を立てている。

二人は、細く開いた扉の隙間に張り付いた。
更衣室からの声は、まだ漏れ聞こえている。

夏生が、押し殺した、だが冷静な声で言った。


「……誰かいる」
「見えてます」
「聖たちは」
「見えません」


端的な会話。
直姫がそう言った時、更衣室から漏れる灯りにぼんやりと照らされた桜の根元に、不自然に動く人影を見た。

それは幹に足をかけて、手を上に伸ばしている。
木に登ろうとしているのだ。

そして次の瞬間には、校舎の影や木の影から飛び出す、いくつかの人影。


「来ましたっ!!」


真琴の声が響いた。

夏生が扉を開けて飛び出す。
直姫も後に続いた。

更衣室の声がぴたりと止んでいる。

慌てて木から離れたその人の背中に、上背のある人影が飛び付く。
たまらず倒れ込めば、もう逃げ場なんてあるはずもなかった。

夏生の後ろ姿が、少しずつスピードを落として、ついに立ち止まる。
直姫が追い付くと、軽い深呼吸を数回していた。
息も切れてないなんて嫌味な、と思いながら、自分の呼吸を整える。


「は……、離せっ」
「はいはい離すわけないでしょー」
「お縄じゃー! なーんつって」


准乃介が、聞き慣れない声をあしらいながら、背中に膝を乗せている。
聖と真琴は手を押さえつけているが、じたばたともがくその動きに、逃げる気などさらさらないのは一目瞭然だ。

もうすっかり日の落ちた裏庭で、捕獲劇はあっさりと幕を下ろしていた。