「恋宵ちゃあん、俺にも一個」


聖はストロベリーとチョコレートの組み合わせがお気に入りなのか、恋宵の隣で楽しそうに手を差し出した。

なんだかきゃぴきゃぴしているが、いつもなら「女子か、お前は」とクールに言い放つ紅が、春の陽気と眠気に挟まれて抗えなくなっているのだ。
そんなソファーには、准乃介までが長い脚を組んで腰掛け、紅の寝顔を眺めている。
さっき写真も撮っていたが、バレたらきっと相当怒られるに違いない。


「准せんぱーい、食べますにょろ?」
「んーん、俺はいいよ」


なんなんだこのふわふわしたかんじ、と、直姫はげんなりした視線を明るいほうへと向けた。

上座に置かれた、大きく重く丈夫な、だが繊細な装飾の施された机。
そしてそんなところに金を掛ける意味の全くわからない牛革の椅子は、今は無人だ。

それらの主である生徒会長は、隣の給湯室――とは思えない広さの、なぜかピアノが置かれた、休憩室兼物置と化している部屋――で、誰かがわざわざ持ち込んだらしい大きなソファーベッドに、アイマスク着用で横たわっている。

夏生はこの部屋にいる時は大抵、革張りの椅子に気だるげに座っているか、休憩室で寝ているかのどちらかだ。
それがこの部屋を一歩でも出れば、いや、扉を少しでも開ければ、爽やかで優しい優等生の東雲夏生になるのだから、人柄なんてそう信用できるものではない気がしてくる。