恋宵の背後には、その准乃介がこちらに向かってくるのが見えた。
おそらく百八十センチの後半だろう長身は、人混みから頭一つ飛び出て見える。

そしてどうやらそのあたりから、小さな歓声と黄色い声が湧き出ていた。
はじめは准乃介に挨拶する女子生徒たちの声だと思っていたのだが、それは勘違いだったことがすぐにわかる。
その人は准乃介の隣を、長い髪を揺らしながら、ただ通るだけで人波を真っ二つに分けて歩いていた。


「石蕗様、おはようございます!」
「おはようございます石蕗様! あら、沖谷様も」
「石蕗様っ!」
「ああ、おはよう」


紅は口許に凛々しい笑みを湛えながら、きゃいきゃいと群がってくる生徒たちに時折言葉を返している。

たまたま近くにいて目が合った女子生徒が一人、歓声を上げてふらふらと人混みから離れていった。
今にも倒れ込みそうな彼女に、すぐに「大丈夫!? しっかりなさって!」なんて悲鳴をあげて、友人たちが駆け寄る。

ちなみに紅の通る道を開けつつも彼女を取り巻く人垣は、ほとんどが女子生徒で構成されている。
男子生徒は人垣の外に追いやられ、人の頭越しに紅を眺めるだけだ。

うわあ、と隣の真琴が声を上げた。