さて、そんな悠綺高校でも、行事のたびになんとなく浮き足立つ雰囲気は、よそと少しも変わらない。
ゴシック様式の校舎のあちこちからは忙しない声が行き交っており、言葉こそ上品だが、それは時間が経過するにつれて少しずつ高揚感を増しつつあった。


そんな北校舎の三階、とある一室では、数人の生徒が慌ただしく動き回っていた。
悠綺高校生徒会――あらゆる意味で、この学校の頂点に君臨していると言っても過言ではない集団だ。
この春新しく入るはずの二人を除く五名がその役員であるはずだが、なぜか今ここには三人しかいない。


「紅ちゃん紅ちゃん、校内地図が一枚足りないにょろよう」


ボブの黒髪も口調もくるくると跳ねる少女が、ふざけたような口調で訴える。
それを受けて眉を寄せたのは、目を瞠るほどの美貌を持つ、長い黒髪の女子生徒だった。


「校内地図? さっき人数分あるのをきちんと確認したはずだろう!」


だが日本人形のような容姿から飛び出たのは、まるで堅苦しい男性口調だった。
髪を掻き上げて放った凛々しい声は、緊迫感たっぷりだ。


「でもどこ探してもないんですにゃあ」
「そんなはずはない、探せ!」


その声を合図に、あちこち引っ掻き回して探し物を始める。
そんな二人に、机の下に滑り込んでいた目当ての物を拾い上げて差し出したのは、見上げるほどに背の高い、男子生徒だった。