それ以上なにも言わないことを察して、居吹が「はい、じゃー次」と気だるげな声をあげた。
その声に、残る一人が、一歩進み出る。


「佐野真琴です。欠席も時々あるかもしれませんが、卒業まではできるだけ学業を優先させたいと思ってます」


よろしくおねがいします、と言って頭を下げた彼は、夏生たち五人が予想していたまさにその人だった。
顔を上げて小さく微笑む姿が、爽やかにさまになっている。


「佐野のことはもしかしたら聞いてたかもしれないけど……特待生だ。それなりの試験受けて通ってきてるんだから、根性はあるはずだ。思いっきりしごいてやれ」


居吹がそう言うと、真琴はぎょっとして振り返ったが、西林寺直姫と名乗った生徒は、目をぱちりと瞬いただけで、なんのリアクションもなかった。
紅の家が剣道家元であることや、夏生が東雲財閥の子息であることを知っていての反応なら、直姫のほうが肝が座っているかもしれない。
もちろん、知らずに平然としている可能性だってあるわけだが。

居吹はそれぞれの反応に満足したようににやりと笑うと、真琴の肩を「冗談だよ」とぱしんと叩いて、扉へ向かった。


「お前ら自己紹介して、明日の昼までに役職決めておけよ。じゃ、あとはよろしく」


そして、そのまま生徒会室を出て行ってしまったのだった。