「噂では大友化粧品の一人娘とか、俳優の佐野真琴とか、って聞いたけど」
「え? 准乃介先輩のその情報網はなに……?」
「その二人が特待生にょろ?」
「わかんないよ、噂だから」


佐野真琴(さのまこと)といえば、若手随一の実力派、といわれている俳優だ。
三年ほど前に主役に大抜擢されたドラマで新人賞を総舐めにし、一種の社会現象まで巻き起こした。

実家は大手医療品メーカーだし、頭脳明晰なイメージも定着しつつある。
家柄や能力を鑑みても、有り得ない話ではないだろう。

大友化粧品の令嬢だって、少し変わっているが才色兼備だと評判だ。


そんな話で盛り上がっていた彼らは、気付いていなかった。
いつの間にか、北校舎に残っている生徒が自分たち五人だけになっている、ということに。

ぶつり、マイクのスイッチが入った瞬間の、独特のノイズが聞こえた。
ペントハウスの上の大きなスピーカーを振り返る。


『これから入学式が始まります。在校生はホールに集合してください。繰り返します。在校生はホールに集合してください』


在校生は、とは言っているが、これは明らかに、入学式の司会進行を努める生徒会役員を呼び出すアナウンスだ。

きっと今頃、ホールでは夏生たちの姿が見えないことに大慌てだろう。
このうえ在校生代表として壇上に上がる夏生が手に原稿を持っていないのを見たら、本当に卒倒する職員が現れるかもしれない。

ぴんぽんぱんぽん、と流れるような高音の余韻がスピーカーから消えると、彼らは顔を見合わせた。


「……やべ」


小さく誰かが呟く。そ
れを合図にしたように、五人は、走り出したのだった。