陽炎の中に立っているハルは
昔となにも変わらなかった。

すらっと細身の体型で
ボロボロのジーンズと古いロックバンドのTシャツを着ている。

それでもだらしないと思わせないのは
ハルの佇まいのせいかもしれない。

普通に見て
カッコイイ部類に入る男性だった。

ユキはゆっくり歩いて
ハルに近寄った。

日差しが眩しくて
手で目元に影を作りながら歩いた。

不思議と汗は一滴も流れることがなかった。

暑さは感じていても
どことなくゾクゾクとしていた。

ハルのせいだ。



ハルの目の前まで来ると立ち止まり
じっとハルの目を見つめた。

ハルは無表情でユキを見返していたが
すぐに口元を緩めこう言った。

「ごめん」

なにがごめんだ。

ユキは心の中では怒っていたけど
何も言えなかった。

ハルは存在していなかったはずではないだろうか。

サークルの人たちはハルのことを覚えていなかった。

どうしてユキだけの記憶に残っていたのか。

そんなことを考えると
ハルに怒りをぶつける以前に聞きたいことが山ほどあるのだ。

「あなたは・・・誰なの?」

ユキは唇を震えさせながら尋ねた。

「おいで。ここじゃなんだから」

ハルは質問に答えず
振り向いて歩き出した。

ユキは黙ってついて行った。

見知らぬ道を歩いているはずなのに
初めて来た気がしなかった。