大学を卒業してから二年が過ぎていた。

ごく普通のOLをしていて
一度だけ恋もした。

大学時代の恋のことなど
思い出したくもなかったけど
会社で知り合った同期の男性と少しだけ恋をした。

でも
本当に少しだけ。

何度か食事して
何度かセックスした。

それだけの関係だった。

ユキも向こうも
それ以上求めはしなかった。

向こうの男性がどんな経験をしてきたのかわからないけど
ユキは心のどこかで
二度とハルを失ったような経験はしたくないと
思っていたのかもしれない。

相手を好きになればなるほど
失ったときが辛くなるだけだった。

ユキは無駄に恋をすることもなく
相変わらず音楽を聞きながら
カフェで読書をしたり
散歩をしているだけだった。

そんなふうに毎日をなんとなく過ごしていた。

ジリジリと太陽が照りつける中
そんな過去のことをユキは思い出してしまって
なんだかやるせなかった。

「やっぱこんな街来るんじゃなかった」

ユキが歩いていたのは
昔通っていた大学のあった街だった。

仕事で近くまで来たから
帰りによく通っていたカフェに寄って行こうと
ここまで来たのだった。

この街に来るのも
大学を卒業して以来初めてだった。

開発の影響で駅周辺はすっかり風景が変わり
ユキは驚いた。

そのため少し迷いながら
懐かしい街並みを歩いていた。

「おっかしいなぁ」

ユキは道に迷っていた。

久々に来たとはいえ
自分の方向音痴さにうんざりしながら
まわりを見回しながら歩きまわっている。

辺りは全然見たことのない景色で
一度引き返そうと振り向いたときのことだった。

夏に飲み込まれた街並みは
ゆらゆらと陽炎を生み出している。

振り返った道のずっと先に
誰かが立っていてこちらを見ているのに気がついた。

それが誰だか
ユキにはすぐにわかった。




ハルだった。