なのに 「恵梨っ」 遠くから聞こえる声は なんだろう。 「恵梨っ」 涙でぼやけた視界のまま ゆっくり振り向いた私の目に映るのは 大好きな先輩のはずなのに。 車? 「恵梨っ!!」 迫ってくるのは ハンドルの操作がままならない 一台の車だった。 「…………いや…………っ!!」 桜は散っていた。 ただまだ春の心地好い風が 私の髪を揺らしていた。 心も身体も痛かった。 高校2年生の春 私は事故にあった。