モミノキ薬品の駐車場に到着した白いステーションワゴン。


悠希はその愛車からおりると、ドアをバタンと閉めた。



「よしっ」



短く気合い入れ、正面玄関へと歩き出す。


その時、スーツの背中をポンと元気に叩く者がいた。


「おはようございます、香澄さん」


悠希は、挨拶をしながら振り返った。

そこには悠希の1つ上の先輩、市川 香澄が笑顔で立っていた。


「月島くん凄いねー!」

「え? 何がです?」


言葉の意味がわからず、思わず聞き返す悠希。


「だって、振り返る前から私ってわかったでしょ?」

「ああ」


悠希は笑う。


「だって、朝からこんなテンションしてるのは、香澄さんしかいませんよ」

「そうかもね」


そう言って、2人は笑い合った。


「あら……?」


その時、ふと香澄は何かに気がついたらしく、笑うのを止めた。


「月島くん……頬」


香澄はそっと手を伸ばす。

反射的にのけぞって、その手を避ける悠希。


「い……いや、これは……」


タイガーに殴られた跡は、注意深く観察しないと、なかなかわからないはずだった。

それを、この短時間で気付いた香澄。

その観察力に、悠希は驚きを隠せなかった。


「どうしたの?」

「いや……ちょっと……転んで……」

「ふ~ん……」