見上げる視線の先にあるのは天高くそびえるマンション。空が割れている。


このマンションって高級マンション?


もしかして泉さん、お金持ち?



「奈緒ちゃん普通のマンションだからね」


「え、」



私また、やっちゃった?心の声だだ漏れですか?



「おいで」



いつの間にかエントランスのオートロックを抜けた彼の後を早足で追いかけ、エレベーターに乗り込んだ。


「おいで」って何か犬みたい。私が犬だったら絶対、しっぽ振ってたな。



「……ッ」



斜め上を見上げると彼が笑っていた。


いつもみたいな微笑みじゃなくて肩を震わせて笑いを堪えてるみたいな。



「奈緒ちゃんって顔に、てか口に出やすいんだね」


「え、そんなことないです」


「そうなの?」


「はい。どっちかって言うと、何考えてるか分からないキャラですから」


「へー。俺、超わかるのにね」



泉さんだけですよ。



「はい、着いたよ」


「お、お邪魔します」



二回目の自宅訪問。


慣れるわけがなく、私は緊張しながら上がった。



「あ、ちょっと待って」



そう言ってリビングに行った泉さんが戻って来た手には真っ黒なスリッパがあった。



「これ使って」


「え、いいんですか?」


「いいも何も奈緒ちゃんのだもん」



だもんって……26歳で、ここまで可愛く使える人はいるのだろうか。



「ほら、お揃い」



泉さんが少し上げた足には私のより一回り大きいスリッパがあった。


やばい、素直に嬉しい。



「ありがとうございます」



彼の前だと、すぐ頬が緩んでしまう。