「おい、奈緒?」


「……で」


「え?」


「馴れ馴れしく呼び捨てしないで!」



そう叫んだ私の顔は泣きそうだったのかもしれない。


私は逃げ出した。


走りながら携帯を取り出し電話を掛ける。



「はい」



聞こえてきた声に心の底から安心した。



「奈緒ちゃん?」



彼が私の名を呼ぶだけで幸せになる。



「どうしたの?」


「泉、さん……」


「ん?」


「……」


「奈緒ちゃん裏門に来て。迎えに行く」


「はい」



私の返事を聞くと直ぐに電話が切れた。


ツーツーと鳴る携帯を見つめる。


みんなが騒いでる中、私は独り校舎へ向かった。