ぅわ・・・、目が合っちゃったよ。


ぇ??どっちと?


―――ぅん。あえて言わないでおくよ。


私は何も見てませんと視線を逸らし、そのまま通り過ぎた。


否、通り過ぎようとした。



――――― ガチャン



不運にもポケットから携帯が落ちた。



「……」



携帯くん、いくら何でも今じゃなくていいじゃないか。


すごい音したし、また傷増えたなー……絶対。


溜め息を吐きながら振り返ると……。


なぜだ。


あの子が私の携帯を持って立っていた。


しかも、あの子の後ろで虎がジッとこっちを見ていた。


見てた、というか様子を窺っていた?


眺めてた?


うーん。


あの瞳は私には理解不能。



「奈緒チャン、はい」



わおっ。


名前、呼ばれちゃったよ。


私は瞬時に、いつもの笑顔を作った。


この子も私にとっては他の人間と同じだから。


うざいけど・・・。



「え。あっ‼‼ありがとー‼。朝から携帯落とすとか不吉だよー。」


「え……あー、だね。どっか傷付いた?」



私の言葉?表情に?驚いたように目を開いた。



「んー…。ま、元々落とし過ぎて傷だらけだからさー」



なに普通に喋ってんだろ私。



「そっか…」


「うん。じゃー、教室でね」



私は踵を返し前に進もうとして振り返った。


やっぱり、まだあの子がいた。



「おはよう」



私は何故か挨拶していた。



「え…お、お、おはよう」


「ハハッ、どもり過ぎだよー」



私は笑って今度こそ校舎へと向かった。


痛いほどの視線が刺さった。


ほんと、うざい。