「大丈夫。私、気にしてないよ」



だから笑う。


私は知ってる。


何があっても笑顔を崩さなけれはスムーズに進むんだ。



「お前……」


「じゃーね」



言葉を遮り私は文字通り逃げ出した。


私って、いつも逃げてばっかな気がするのは気のせい?



「神山!何であの時、千夏の胸倉掴んでたんだよ!?」


「……」



その言葉にピタリと足を止めて振り向いた。


もちろん笑顔は忘れない。


何でって……。



「嫌いだから」



あー、私はまだこの世界を彷徨うのか。


笑顔が疲れる。


頭が痛い。


お腹も痛い。


体がだるい。


イライラする。


何で?


何であの時、恭二に腕を掴まれた時、私の頭の中に彼の顔が過ぎったのだろう。


たった一回、ぶつかっただけなのに。


たった一回、大事なものを拾ってもらっただけなのに。


たった一回、家にあがっただけなのに。


たった一回、涙を見せてしまっただけなのに。