ヒロイン 完

「お前らさー馬鹿なの?」



そう言ったのは意外にも隣に座っていた逞さんだった。


あー良かった、逞さんがいたんだ。


爪が食い込む勢いで握っていた拳を解く。



「奈緒ちゃんは二度とここに来ないよ」



不意に立ち上がった逞さんは私の手を引っ張った。


私は救われたように感じた。


唖然とする皆を背に、私は逞さんに手を繋がれたまま部屋を出た。


結局、一言も喋らなかった蓮さんを扉が閉まる瞬間に見ると、目が合った。


私が会釈すると、虎は悪戯に口の端を上げた。


なんだか、もう迷い込んで来るなよって笑われた気がした。


心外だ。


連れ込んだのは、そっちじゃないか。



「はい、奈緒ちゃん乗って」



何故か開けられたのは助手席じゃなくて後部座席。


ずいぶん前に言ったことを逞さんは覚えていたのだろうか。


私は小さく「お邪魔します」って言って乗り込んだ。


車が発進すると何だかどっと疲れが湧いて出てきた。



「奈緒ちゃんって愁や俺といる時とは全然違うんだね」



バックミラー越しに言われた言葉に、そういえば前に蓮さんにも言われたな。


さすが兄弟、根本的な作りは一緒なのね。



「猫被ってるんですよ」


「ん?それはどっちで?」



そりゃー…。



「………」



学校で、って言おうとしたけど思い留まった。


どちらもかもしれない。


もしかしたら、どちらでもないのかもしれない。


なんか分からなくなってきた。


家族に見せている家での自分。


ほのかや千夏…学校で見せている自分。


泉さんの前で見せている自分。


キタナイ…憎悪の塊のような自分。


泣いている自分。


死にたいと言う自分。


死にたくないと思っている自分。


矛盾ばかりの自分。


いったいどれが本当の私。


私は……ダレ?