私が居なくなった倉庫では逞の登場で緊迫した雰囲気に包まれていた。



「恭二どこへ行く?」



一人出口へと駆け出していた恭二を逞が呼び止める。



「一人で帰らせるわけには行かないですから」


「暴走はどうすんだ?」


「……ッ」



拳を握りしめ俯く恭二に逞は、わざと言っていた。


大人数で走る時には他方から裏で手を回している。特攻隊長である恭二が抜ければ、色々なところに問題が起きるのだ。



「恭二、あの女を追うのか?黄龍の姫を置いて」



低い声で言ったのは朱吏。


恭二は顔を歪めた。だって恭二には選べない。



「恭二行きたきゃ行け」



その言葉に驚き、顔を挙げると真っ直ぐな瞳をした蓮と交じ合った。恭二は小さく頷くと倉庫を飛び出した。



「蓮!良い加減にしろよっ!」


「離せ」



胸倉を掴まれた蓮は幸大を冷静な目で見下ろす。



「くそっ!」



投げやりに胸倉を離された蓮は胸元を整え皆を見渡した。



「いい加減にするのは、てめぇらの方じゃねぇのか?」


「あ?どういうことだよ」


「あいつを無理矢理誘ったのは、お前らだろーが」


「……」


「千夏。あいつは、ずっと無理だって言ってただろ」


「……うん」



少しの間を開けて頷いた。


「あいつは暴走って行為を怖がっていたんだ。一般人なら当たり前だろ」


「……」


「でも、あいつは行くって言った。それは、お前らを信用してたからじゃねーのか?」



蓮は苛立ちを抑えるように煙草に火をつけ口に運んだ。



「お前らは、あいつの想いを裏切ったんだ」



静まり返った倉庫に、這うような低い蓮の声が響いた。