「……」


「ごめんね。遅くなって」



俯いた私に彼は言った。


違う。


泉さんは悪くない。


悪いのは私。


でも、ごめんなさいの一言が出てこない。


拳に力を込めると頭に温もりが与えられた。



「奈緒ちゃん」



頭上から降ってくる声。


これ。


私が欲しかったもの。


この言葉が、声が、聞きたかっただけなんだ。



「奈緒ちゃん、こんな所にいたら危ないよ」


「はい」


「遅くなっちゃってごめんね」



再び私に謝った泉さん。


慌てて首を横に振った。



「ごめんなさい」



泉さんは優しく頭を撫でてくれた。



「行こ」



私達は車に乗り、いつもの場所に向かった。