仕事が終わり八時にカラオケに着くと連絡があったのは今さっき。


携帯の電光時計は07:32を差していた。


カラオケの前のレンガの花壇に腰を掛ける。


そして鞄からiPodを取り出しイヤホンを耳に付けた。


これで外界との接触を遮断する。



「……」



行き交う人なんか気にならない。


だって声が聞こえないもん。


今、私は私だけの世界にいる。


暗闇の中、キラキラ光る店、看板、車が綺麗に見えた。


泉さん。


早く来て。


早く。


早く。


早く。


怖いよ。


鞄を抱きかかえイヤホンから流れてくる音量を高く上げて俯いていた私は気付かなかった。


何の前触れもなく肩を鷲掴みにされた。



―――――― ビクッ



勢い良く顔を挙げた先には息を乱した彼がいた。



「泉さん……」



耳からイヤホンを外す。



「何してるの、こんな所で」



あれ?



「待って、ました」



見えない威圧感が彼の瞳から伝わってきた。



「行くよ」



私は、私は、掴まれた手を拒絶してしまった。


だって、いつもみたいに私の名前を呼んでくれないから。