『行って来ます』 あたしの声に答えを返す者はいない。 知っていながらも、 家を出る時は必ずそう言うようにしていた。 こんなあたしを 追い出さずにいてくれるだけで 十分感謝していた。 台所に立つ母親の背中を見ながら、 今日も心の中で呟く。 "ごめんね" その日は灰色に染まる晴天。 母の背中を見る最後の日となった。