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大統領、お元気でしょうか。

王室のテレビで時々貴方の姿を拝見しております。この小国と違い、アメリカのような大国を治める事はさぞかしご苦労な事でしょう。

毎日御多忙な事とは思いますが、どうぞお体にだけは十分にご注意下さい。

健康は何物にも代えがたい。

私はつい先日から病に倒れ、床に伏せている状況です。

医師の診断は、かなり進行した末期の癌でした。
たった今、命の期限を宣告されたばかりです。

これは至極残念な事ですが、悲観はしていません。

私の人生は、十分に幸福でした。

私の国、ブタリアは概ね平和に、そしてブタリアの子供達の元気の良い笑い声は、この宮殿にまで届きそうな程にこの国の民の心は活気に満ち溢れています。

私はもう、この命がいつ果てようとも構わない。

ですが、ひとつだけ気掛かりがあるとするなら、それは私が居なくなった後の我が娘イベリコの事です。

私の妻が五年前に亡くなり、私が居なくなればイベリコは正式にブタリア王国の王位を継承する事になります。

しかし、一国の王となるにはイベリコは余りにも若すぎる。

出来る事なら、イベリコには一人のまま、その重圧を受けさせたくは無いのです。

もし、私が居なくなるような事があれば、イベリコには伴侶と共に力を合わせこの国を治めてもらいたい。

この国の侍従局に、ロースという青年がいます。

イベリコが幼き頃から彼女と心を分かち合って来た彼なら、イベリコの相手に申し分ないのではと、私は秘かながら勝手に思っているのですが……

私の感じる限り、イベリコの方もロースを愛しているのではと思うのです。

我が古き友人よ、もし私の命が果てひと月以上もイベリコが一人でいるようであれば、この親書を娘に見せてやってはくれないだろうか。

そして、大国の大統領である貴方にイベリコとロースの後見人となっていただきたい。

もっとも、イベリコの意志で別の伴侶が見つかれば、この親書は彼女には見せないでもらいたい。

愚かな父の身勝手な願いですが、信頼出来る古き友人の貴方に、私のこの遺言を快く受け取ってもらいたいのです。



親愛なる古き友人へ

    ブタリア王国国王
        ポーク・メンチ



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