「先輩は、何もわかってない。」

「何言ってんの……」

「俺がどれだけあなたを好きか、わかってない」

先輩でも、璃子先輩でもなく……あなた。
そう言う柴に違和感を覚える。

本当にあなたは柴ですか、と。


「抱きしめて、キスして、くっついて、甘えてほしい……」

「あんた、何言ってんのか……」

わかってる?
そこまで言えなかった。

柴が、泣いていたから。


「な、泣いて……!?」

「泣いてなんかないです」

私はようやく気づいた。
ああ、柴、そんな辛かったんだって。


「し、じゃない……稟汰」

どうしてこうも、人生は上手く行かないのか……。


木漏れ日の中、抱き合う二人の影は木によって隠される。
遠くで、誰かの声が響く。

まるでここだけ切り取ったかのように別世界だった。

まるで、世界で自分と彼しかいないような感覚。


「璃子先輩……」

「稟汰?」