老婆を背負い、豊田は今来た道を引き返していく。

人一人の重み。

しかしこれくらいならば大丈夫。

足元をしっかり確認しながら、彼女は再び渡河する。

…豊田の体に、ギュッとしがみつく老婆の腕。

怖かったのだろう。

寂しかったのだろう。

その想いが伝わってきて、豊田は目頭が熱くなった。

と。

「あんたみたいな娘さんが、こんな危険な仕事して…立派だね…立派だねぇ…」

老婆が声を震わせて呟く。

その言葉に驚いた。

豊田の思い違いだった。

不安でしがみついていたのではない。

若い女性の身で、己を省みず危険に赴く。

老婆は豊田を不憫に思い、抱き締めていてくれたのだ。